Topaztan’s blog

映画やドラマの感想や考察をつづっています

クリス・ヘムズワースとロキの関係まとめ

サマリー: ヘムズワースはダークワールド公開後しばらくしてから、ダークワールド含めそれまでのソー出演作品、特にダークワールドへの批判を口にするようになり、ファイギに死にかけている気分であるとか手錠をかけられている気分と伝え、ソーの方向性に大きな変換が図られた。またロキが何回も舞い戻ってくる展開を嫌っており、戻ってきて欲しいとは思わない言葉を繰り返している。バトルロイヤルでも気に入っているのはロキとのやりとりではない。その一方でロキを演じるヒドルストン個人に悪感情がないことを繰り返している。

 

 最近、マーベルのソーシリーズ第5作目に関するニュースが取り沙汰されるようになりました。その前作は20227/8公開の『ソー: ラブ&サンダー』で、色々な意味で「新しい」ソー映画であることが喧伝されていました。これはまた初めて「ロキがいない」ソー映画でもあり、ほんの少し締め殺されるシーンが回想で出てきましたが、役としてはロキは出てきません。

 

 しかし巷では直前まで、ロキがサプライズで出演するのでは!?という期待の声が多く聞こえてきました。というのも、本作の監督タイカ・ワイティティが監督した『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)(以下『バトルロイヤル』)では、ソーとロキの絆が重要なテーマになっており、ワイティティはロキというキャラクターが好きなのではないかという考えが一部ファンダムに存在していたのです。そしてソー役のクリス・ヘムズワースは、ロキ役のトム・ヒドルストンと、かつて大変仲の良いプロモーションをしていたことでも有名で、2人の親密そうなツーショット写真や動画がいまだにネットに出回っています。

 予告映像が解禁された時には、ゼウスのパワーで全裸になったソーの背中に、R.I.P Lokiと読める文字やロキの兜らしきタトゥーが見られ、ロキ登場への期待がいやがおうにも高まりました。

 

  そのような空気の中、「実はロキが出演するのではないか」という疑問に応えるようなインタビュークリップがアップされました。

 しかしそこにあったのは、ヘムズワースやタイカ・ワイティティ監督が、ロキが死んだということを冗談混じりに何度も強調する姿でした。

 

2022622日 Chris Hemsworth And Taika Waititi Comically Mock Tom Hiddleston's Absence From Thor: Love And Thunder: ‘He's Obviously Dead To Us'(Cinema Blend)

 

https://www.cinemablend.com/interviews/chris-hemsworth-and-taika-waititi-comically-mock-tom-hiddlestons-absence-from-thor-love-and-thunder-hes-obviously-dead-to-us

 

(以下引用)

Chris Hemsworth: He didn't want to be involved. He said 'I hate all of you, and in particular me,' and I was like, 'That's a shame. And that’s it. I mean, how many times can we kill him? Three? Four?

 

Chris Hemsworth: We love Tom. We love Tom. Yeah. But he's dead. Not him, but the character of Loki.
Taika Waititi: No, no he's just dead to us.
Chris Hemsworth: He's obviously dead to us, as far as friendship goes.

 

(以下拙訳)

ヘムズワース「彼はもう関わりたくないんだ。みんな大嫌いだ、特に君がって言われたよ、残念ながらね。だって、我々は何度彼を殺せばいいんだろう?3回、4回?」

ヘムズワース「我々はトムが大好きだ。トムが大好きだ。でも彼は死んだんだ。トムがじゃなくロキというキャラクターがね。」

ワイティティ「そう、そう、我々にとって彼は死んでるんだ。

ヘムズワース「彼は明らかに我々にとって死んでるんだ。友情に関する限り()

 

 ヘムズワースが特にその話題を主導しており、死んだとか殺したとかいう言葉を3回も繰り返しています。

 海外の反応を見ますと、多くの人は、単なる冗談、親しみの表現とみなしました。一方で少数ながら、2人がロキやトム・ヒドルストンをバカにしている、面白くない冗談で失礼だ、というようなネガティヴな反応もあります(mockという表現を使った記事もありました)

 

 さて、この「単なる冗談」という見方は果たして妥当なものでしょうか?

 ヘムズワースもワイティティも、ロキやヒドルストンを愛してて、ちょっと捻くれたオモシロ表現をしたと言えるのでしょうか?

 このクリップだけをみる限り、そう捉えることはできそうです。たとえソー役のヘムズワースが「ロキを何回殺せばいいんだ?」という言い方をしたのに引っ掛かりを覚えないとしても(ソーは映画で一回もロキを殺したことはありません。) またアベンジャーズの俳優たちはよくインタビュー類でわざと相手をくさすような軽口を面白おかしく叩き合っており、その一環のように見えます。

 

 しかし今までの各種インタビューやプロモーションの経緯をつぶさに見ますと、一筋縄ではいかない事情が見えてきます。

 実はヘムズワースは、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(2013)(以下『ダーク・ワールド』)公開後しばらくしてから、ロキというキャラクターに対する反感、およびソー12作め(特に2作目)への不満を口にするようになっており、『バトルロイヤル』公開以降はヒドルストンとも公の場で仲良しぶりを示すことはほとんどなくなりました。

 ロキ好きと一部で思われているワイティティ監督もロキに対する否定的な言葉を述べており、ロキというキャラが特段好きとは見えません。

 

 たとえばあの巨大なロキタトゥーは、タトゥーを入れるアイディアはワイティティ監督でしたが5倍の大きさにするというアイディアはケヴィン・ファイギのものだったと言います。

 

『ソー:ラブ&サンダー』ロキ追悼タトゥー、普通より「5倍大きく」とマーベル社長がお願いしていた|シネマトゥデイ

 

 あの突拍子もなく巨大なタトゥーでロキへの追悼の巨大さを感じた視聴者もいたと思いますが、それはワイティティやヘムズワースの発案ではなかったということです。

 

  このような経緯をみますと、先程のクリップの見え方も変わってきます。

 

 そこで以下に、これまでの関連する経緯を追ってみたいと思います。

 

1クリス・ヘムズワースのインタビューにおけるロキ観の変遷

 

ダークワールドまでの蜜月時代

 

 ハリウッドではほぼ無名の若手俳優だった状態でソーとロキに抜擢された、ソーシリーズでのヘムズワースとヒドルストンは、2作目のダークワールドのプレミアあたりまでは大変良好な関係を見せていました。インタビューでもお互いの役を重視する発言をしています。

 

「『マイティ・ソー/ダーク・ワールドクリス・ヘムズワースインタビュー映像」

シネマカフェ 2014124日公開

 

https://youtu.be/PCgCaUhKcjk

 

(以下引用)

(ロキとの関係について)今回ソーはなぜそんな風になってしまったのか、何が原因でここまでこじれてしまったのかを、面と向かってロキに問いただすことで、兄弟の仲を修復しようとする。自分にも非があったことを認めた上で、『お前もすべて周りのせいにするのはやめて自分が犯した罪ときちんと向き合うべきだ』と諭すんだ。それまで鬱積していた様々な問題をめぐって、兄弟が真っ向からぶつかり合うのは、演じていても楽しかった。前作よりさらに複雑でダイナミックな関係と言えるんじゃないかな」

 

 ヘムズワースはことほどさように、ロキという役柄についてリスペクトした発言をしていました。またよく2人で組んでインタビュー類を受けており、ボディタッチも多くいかにも親しげです。その中で、ソーとロキのファン同士はcompetitiveなのではというインタビューアーの質問に対し、ヘムズワースは否定し、自分はロキの一番のファンだとも述べて、ヒドルストンが照れるというシーンもありました。

 

https://www.youtube.com/watch?v=LWRuWM-ubTs

 

 ちなみに、ロキは本当はダークワールドで本当に死ぬ予定で、試写の反応から急遽生きていることに変更になったという経緯があります。

 

https://theriver.jp/thor2-loki-changed/

 

(以下引用)

ヒドルストンによると、ロキを生かしておくという変更が加わったきっかけは、試写の観客からの反応だったようだ。

「スヴァルトヘイムでロキが死ぬ場面は、本当の死として(脚本に)書かれていました。クリス(・ヘムズワース)と僕は、そのつもりで演じていたんですよ。ロキは汚名を返上して兄とジェーンを救う、けれどもその過程で自分が犠牲になってしまうんだと。当初はそういう内容だったんですが、試写の観客にはそう受け取られなくて。ロキは絶対帰ってくる、あれは真実じゃないと言われたんですね。妙な話ですけど、ほぼ全員がそう思った。そこで(マーベルは)あれで終わりにはしないと決めたんです。」

 

ソー3作目での変化

 

 その風向きが変わってきたのは、ダークワールド公開後しばらくしてからです。2015年あたりからソー3作目が始動し始め、「マイティ・ソー3」にハルク登場が濃厚 : 映画ニュース - 映画.com  インタビューやプロモが流れ始めましたが、従来とやや毛色が違う映画になりそうな様子が見えてきました。

 

 2016121

『マイティ・ソー』第3弾は宇宙のロードムービー!?マーク・ラファロ語る|シネマトゥデイ

 

 これによると、脚本ができていない初期のディスカッション段階では、「ソーとハルクの宇宙のロードムービー」を目指しているとのことでした。2016718日の撮影が進行している時の記事でも、ワイティティ監督がロードムービーの要素があると認めています。

 

 2017921日『マイティ・ソー バトルロイヤル』クリス・ヘムズワースマーク・ラファロ メッセージ映像到着 の記事では、そのようなロードムービーが目指された経緯が語られていました。

 

『マイティ・ソー バトルロイヤル』クリス・ヘムズワース&マーク・ラファロ メッセージ映像到着 | Fan's Voice | ファンズボイス

 

 (以下引用)「制作陣がクリスに『マイティ・ソー』の3作目をやりたいかどうか、そしてどういう映画にしたいか聞いた時、彼は僕と一緒に仕事をしたいと、バナー/ハルクとソーが一緒になるのは素晴らしいだろうと言って、それが今作の始まりになったんだ。僕はとても興奮したよ」

 

 つまりダークワールド公開後2年ほどした2015年あたりでヘムズワースがラファロとの共演を望み、それが『バトルロイヤル』のきっかけになったと語っています。本作はヘムズワースが初めて深く関わるソー作品ですが、その際ロキではなくハルクをバディとして選んだわけです。実際の映画は、蓋を開ければ兄弟の物語が主眼でしたが、当初の構想では全く違ったものだったわけです。

 

 

 そして一方でヘムズワースは、ダークワールドなど以前のソー作品への批判を始めます。

 

2018820日 Chris Hemsworth Is Post-Hunk(GQ)

 

https://www.gq.com/story/chris-hemsworth-is-post-hunk-cover

 

(以下引用)

” The first one is good, the second one is meh,” Hemsworth says. “What masculinity was, the classic archetype—it just all starts to feel very familiar. I was so aware that we were right on the edge.” Where in the first two films he played his hero character straight, in the third iteration he injected more humanity and created a character truer to his own spirit.

 

(以下拙訳)

1作目はgood良い、2作目はmehまあまあ。」とヘムズワースは言う。「古典的な男性性とは何かを、よく考えるようになったんです。私は、我々が崖っぷちに立ってると気づきました。」前2作がヒーローをストレートに演じたのに対し、3作目はより人間的に、より自分自身のスピリットにより忠実なものにした。

 

 このバトルロイヤル以前のソー批判はその後もずっと続きます。

 

 2019418 Chris Hemsworth: I was exhausted and underwhelmed with Thor before 'Ragnarok' (exclusive)(yahoo!entertainment)

https://uk.movies.yahoo.com/chris-hemsworth-exhausted-underwhelmed-thor-ragnarok-exclusive-123201006.html

 

(以下引用)

“When we came into Ragnarok, I was sort of exhausted of what I’d been doing and a little sort of underwhelmed by what I was putting out there, you know?”

 

 “That was no fault of any director or writer, that was me personally. It felt like I’d put myself in a box with what the character could do. So on Ragnarok, it was about breaking all the rules, and kinda going ‘as soon as it feels familiar, do something different’,

 

think, tonally, we never quite landed on what that [film] should have been. I think it became a little too… I don’t want to say serious… but, as I was shooting it I desperately wanted to do something more fun with the character, and unexpected.”

 

(以下拙訳)

 「『バトルロイヤル』制作が始まった時点で私は今までの演技に疲れ切っていたし、自分が演じるソーに少しがっかりしてもいた。」

 

「それはディレクターやライターのせいではなく自分個人の問題だ。キャラクターができることに関して、自分自身を箱の中に押し込めてるような気がした。だからラグナロクでは、すべてのルールを破り、「親しみやすそうなことだと思ったらすぐに、何か違うことをやってみる」ということをした。」

 

「ダークワールドが目指していた雰囲気には到達できなかったと思っている。その雰囲気が重すぎたとは言いたくないが、演じていた時も、もっと楽しい、予想外のことをしたいと思っていた」

 

 (日本語記事:クリス・ヘムズワース、『マイティ・ソー バトルロイヤル』以前のソーに「辟易してがっかりしていた」と告白)

 

 ちょっと話は先になりますが、2022年のラブアンドサンダー公開前の、自分のキャリアを振り返る動画でも、ダークワールドを批判しています。ソー1については、自分にとっていかに重要な作品だったかやや唐突に述べますが、ダークワールドについては主要作品としてすらピックアップしておらず、不満があったことを言葉で述べるのみです。

 

2022614 Chris Hemsworth Breaks Down His Career, from 'Thor' to 'Spiderhead' (Vanity Fair)

 

https://youtu.be/laJBPb4RXNk?si=J-4l3j2q53AKhr3L

 

(以下引用)

"I wasn't stoked with what I'd done in Thor 2,"

 

" You know, I was a little disappointed in what I'd done. I didn't think I grew the character in any way and I didn't think I showed the audience something unexpected and different. When Ragnarok came along, out of my own frustration on what I'd done — and this isn't on any other director, this is my own performance — I really wanted to break the mold, and I said this to Taika."

 

「私はソー2でやったことにワクワクしていなかった。」

 

「私は自分がしたことに少しがっかりしていました。私はどんな方法でもキャラクターを育てたとは思わなかったし、観客に予期せぬ違うものを見せたとは思わなかった。ラグナロクの話が出たとき、私がしたことに対する私自身の欲求不満から ーそしてこれは監督にではなく、私自身のパフォーマンスについてなのだがー私は本当に型を破りたかったので、タイカにそう言った」

 

(日本語記事: クリス・ヘムズワース、『マイティ・ソー』第2作に失望 「飽きてしまった」と心境を吐露

(2022.06.16)(リアルサウンド)

https://realsound.jp/movie/2022/06/post-1054561.html

 

 そして2019年、エンドゲーム公開の前日に公開されたこの記事では、より深刻な形で、ラグナロク以前の作品におけるソーがいかにイヤだったかが語られています。これは201710月のエンドゲーム撮影中のインタビューとのことで、バトルロイヤル公開直前です。

 

 >自分は死にかけている

 >手錠をかけられている

 

ほとんど悲痛な心の叫びに見えます。

 

 2019425日 Avengers: Endgame—Is Thor’s New Look More Than Just a Joke? (Vanity Fair)

 

https://www.vanityfair.com/hollywood/2019/04/avengers-endgame-fat-thor-ptsd-jokes-controversy

 

(以下引用)

 Speaking with Vanity Fair on the set of Avengers: Endgame in October 2017, Hemsworth reflected back on his first few outings playing the self-serious, Shakespearean Thor that Kevin Feige and the Marvel team originally dreamed up. The actor said he was frustrated and bored. Like the depressed Thor in Endgame, Hemsworth was unable to be the hero he thought Marvel wanted him to be: ‘I feel like we came out of the gate strong with the first Thor, and then it got watered down a bit. I take responsibility for that. I’m not pointing fingers at writers or directors. But then it became predictable or overly earnest, self-important, and serious. Nothing that was unexpected.”

 

After critically mixed outings in Thor: The Dark World and Avengers: Age of Ultron, the crimson-caped Thor had lost his mojo. He sat out the next   Avengers team-up, Civil War, entirely while the plans for the third solo Thor movie got a major overhaul. At a meeting that some in Hollywood might consider unusual, Feige not only listened to his star’s concerns—he took notes. ‘I feel like I’m dying here,’ Hemsworth told Feige. ‘I feel like I have handcuffs on.’

 

‘It has to be funnier; it has to be unpredictable,’ the actor remembered saying. ‘Tonally, we’ve just got to wipe the table again.’ That reset for Thor—and a massive infusion of improvisational humor—came courtesy of Thor: Ragnarok director Taika Waititi, who helped transform Marvel’s most stately and straitlaced property into a zany, no-holds-barred adventure that gave Guardians of the Galaxy competition for the oddball crown. That film cheekily ripped the standard idea of Thor to shreds—cutting his hair and stripping him of his cape, his hammer, his home, his girlfriend, his friends. All of which was Hemsworth’s idea.

 

But by the time Endgame rolled around—and so many of his castmates were ready to say goodbye—Hemsworth was just getting started on this newer, funnier Thor. Sitting opposite from me, his greasy wig lank and his unkempt beard scraggly, Hemsworth said he was finally playing Thor as he was meant to, not as he was expected to. ¹  

 

(以下拙訳)

 201710月のアベンジャーズ:エンドゲームのセットでVanity Fairのインタビューを受けながらヘムズワースは、ケビン・ファイギとマーベルチームが最初に夢見ていた真面目なシェイクスピアのソーを演じた最初の数回の出演を振り返った。彼はイライラして退屈していたと語った。エンドゲームの落ち込んだソーのように、ヘムズワースはマーベルが望んでいたヒーローになることができなかった。

「私たちは最初のソーで力強い門出ができたような気がする。しかそそれはその後少し骨抜きになった。その責任は私にあるし、脚本家や監督を責めようとは思わない。しかし、その後、それは予測可能で、また過度に真面目で、重要で、深刻になった。予想外なことは何もなかった。」

 

 ソー:ダークワールドとアベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロンで批判が入り混じった後、真紅のマントのソーは魔力を失っていた。彼は次のアベンジャーズのチームアップであるシヴィル・ウォーを完全に欠席し、3作目のソー単独映画の計画は大幅な見直しを受けた。ハリウッドにしてはある種尋常ではない会議で、ファイギはスターの懸念に耳を傾けただけでなく、メモを取った。「ここで自分は死にかけているような気がする」とヘムズワースはファイギに語った。「手錠をかけているような気がする。」

 

「もっと面白くなければならない。予測不可能でなければならない」と彼は考え出した。「文字通り、私たちはもう一度テーブルを拭かなければならない。」ソーのリセットと即興ユーモアの大規模な注入は、ソーの好意によるものです。ラグナロク監督のタイカ・ワイティティは、マーベルの最も荘厳で窮屈な財産であるソーシリーズを、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの競争者に変え、滑稽で制限のない冒険に変えるのを助けた。その映画は、ソーに対するスタンダードなアイディアを引き刻み、髪を切り、マント、ハンマー、家、ガールフレンド、友人を剥ぎ取った。それはすべてヘムズワースのアイデアだった。

 

 しかし、エンドゲームが始まり、彼のキャストメイトの多くがさよならを言う準備ができていた頃には、ヘムズワースはこの新しくて面白いソーを始めたばかりだった。私の向かいに座って、彼の脂っこいかつらと手入れの行き届いていないひげがぼろぼろに座っているヘムズワースは、彼が期待されていたようにではなく、彼が意図していたようにソーを演じていると言った。

 

 

「ロキに戻ってきて欲しくない」と語り続けるヘムズワース

 

 映画作品だけでなく、彼はロキというキャラとの関係性についても侮蔑的に、もう今までのような関係を繰り返したくないという発言を始めます。

 

201799日 How Thor And Loki’s Relationship Has Changed In Ragnarok, According To Chris Hemsworth(Cinema Blend )

 

How Thor And Loki’s Relationship Has Changed In Ragnarok, According To Chris Hemsworth | Cinemablend

 

(以下引用)

You know, without giving too much away, it was one thing I said because I don't wanna repeat that relationship either. And I think, you know, Tom felt the same. All of us were like what hap- what can we do again here? And yeah, I'm sorry, I'm walking a fine line kinda what I can do. But I think, there's a bit of reversal as far as kind of, You know, in the first films, you know, a lot of the time you're seeing Thor kinda going, 'come back Loki,' and da-da-da-da. And, you know, I think there's a feeling from Thor now that's just like, 'you know what kid, do what you want.' You know, you can't hurt for trying, you know? 'You're a screw-up, so whatever. Do your thing.' So there's a bit of that, which is fun, but also something we haven't sort of played with as much, you know?

 

(以下拙訳)

 あまり多くを言わないけど、私が言いたいことはひとつ、その関係を繰り返したくないということ。トムも同じように感じてると思う。私たちは皆、ここでまた何ができるだろうか、という感じだった。すまないが、私は(訳註: 面白くなくなる?)紙一重の道を歩んできた。しかし最初の数作品で、ソーが「戻ってきてくれ、ロキとかなんとか」と言うのを皆さんはたくさん観てきたと思うけど、今度はそれとはちょっと逆になると思う。そしてソーは「お前は自分がどんなヤツか知ってるだろう、お前のやりたいようにしろ」というような感じのことを言うと思う。やってみて損はないって。「お前はめちゃくちゃだから、なんだっていい。自分のことをするがいい」それは楽しいことだし、私たちがあまり演じたことのないものでもある。

 

 >'come back Loki,' and da-da-da-da.

この表現に込められた感情かなりキツイものを私は感じます。

 

 そして2019411日の記事で、ロンドンでのファンミーティングでロキについての話題になった時、ロキがなん度も復活することについてウンザリしているような発言をしていたことが述べられます。

 

“Ahhh, he’s like the girlfriend you break up with and they don’t get the message. Like, ‘You’re dead, sorry, it’s over,’ and they’re coming round to hang the new drapes. The most poignant moments [of Thor’s movies] have been with Loki.”

 

「あああ、彼は別れたのにそれを認めようとしない元カノみたいなものなんだ。

『君は死んだんだ、悪い、終わったんだ』と言っても、やってきては新しいカーテンを部屋にかけにくるみたいにね。ソーの映画の中で最もpoignantなのはロキに関することだ」

 

Chris Hemsworth Won't Rule Out Loki's Return In Avengers: Endgame – We Got This Covered

 

 

そしてロキへのウンザリ感を、別な表現でもしていて、ソーという役柄ではなく自分だったらロキに我慢ならないことを仄めかしています。

 

2019424日 Avengers stars reveal one big downside to the job(News.com.AU

 

Avengers Endgame: Chris Hemsworth reveals he’s not too old for Marvel franchise | news.com.au — Australia’s leading news site

 

(以下引用)

Would Hemsworth bring back his troublesome onscreen brother if he could?

“No. Why would I do that?” he answers, blankly. “He fooled me time and time again. But on the personal side, I was with Tom since the beginning of this journey and I learned a lot from him.” Hemsworth pauses. “If you’re asking if Thor would bring him back, I think if he could have done he would have. But for me, I don’t know.”

 

(以下拙訳)

ヘムズワースはこの映画の中での困った弟を可能なら連れ戻しますか?

「いいや。なんで私がそうするんだ?」と彼は無表情に答えた。「彼は私を何回も騙した。でも個人的には、自分はトムとそもそもの初めから一緒に旅をしてきたし、彼から多くを学んだ」少し置いてから「もし君が、ソーなら彼を連れ戻すかって訊いてるなら、できるなら彼はそうしてただろうね。でも私なら、よくわからない」

 

 ロキが「私を」何回も騙したという表現が引っかかります。役と自分が一体化しているような発言ですね。

 同様の内容は日本の媒体でのインタビューでも語っており、彼の考えが強固であることがわかります。

 

「「消えたアベンジャーズの仲間を復活させるなら誰?ロキは?」『アベンジャーズ/エンドゲーム』クリス・ヘムズワースジェレミー・レナー特別インタビュー」(2019428日公開)

https://www.banger.jp/movie/8699/

 

(以下、引用)

-最後に、もしも『インフィニティ・ウォー』で消えたキャラクターを誰でも生き返らせることが出来るとすれば、クリスはやはりロキを選びますか?

クリス:なぜその必要があるんだ?

ジェレミー:同感(笑)。

クリス:ロキはソーを何度となく騙してきた。誰でも生き返らせることができるとしても、あいつを復活させるのはどうかな。

ジェレミー:この時点で生き返らせる価値なんてない。誰も望んでないし。

-ロキのファンがいますよ。

クリス:確かに、観客動員を増やすためには意味があるかもしれないね。ソーとロキはマーベル・シネマティック・ユニバースMCU)でたくさんの経験をした。ソーが成長できたのは、ロキがいたからだ。トム(・ヒドルストン)とは1作目からの付き合いで、彼からたくさんの事を学んだし、友情を育んだ。たくさんのいい思い出があるよ。

 

 多分言いすぎたと思ったのでしょう。最後のパラグラフの後半では、それまでとがらっと変わってロキがいたからソーが成長できたとかトム・ヒドルストンから多くを学んだとか、リップサービスを始めています。しかしそれまでの流れでは、ロキとの共演をもはや望んでいないのは明らかです。そしてこのインタでも相変わらず「僕自身としては『マイティ・ソー バトルロイヤル』で打ち出したソーの新たなキャラクター像が気に入っていて、その続きを追求したいと思っていた。昔のソーには戻りたくないなあ、と述べています。

 

  そして冒頭で紹介した、2022年のタイカとの対談での「ロキは死んだ」発言。

 もう一度ご紹介しましょう。

 

ヘムズワース「彼はもう関わりたくないんだ。みんな大嫌いだ、特に君がって言われたよ、残念ながらね。だって、我々は何度彼を殺せばいいんだろう?3回、4回?」

ヘムズワース「我々はトムが大好きだ。トムが大好きだ。でも彼は死んだんだ。トムがじゃなくロキというキャラクターがね。」

ワイティティ「そう、そう、我々にとって彼は死んでるんだ。

ヘムズワース「彼は明らかに我々にとって死んでるんだ。友情に関する限り()

 

 これまでの流れを見たらもうわかりますよね。

 冗談とか照れ隠しじゃなくて、本当にロキは自分にとっては死んだ存在だと言ってるわけです。

 

 ちなみにワイティティ監督は、ロキをバトルロイヤルで殺すアイディアを持っていましたが、MCU側がインフィニティ・ウォーで殺す計画を持っていたので止められました。ワイティティもヘムズワースと話してそれまでのソーに飽き飽きしていると答えており、一部のファンダムで考えられているようにロキというキャラやソーとの関係性が特段好きというわけではなさそうです。ファンダムはソーとロキの関係性にクレイジーだという発言もしており、全体として見るとロキにあまり好意的ではない感じです。その点でも、ヘムズワースと気が合ったのでしょう。

 

 

2.プロモーションなどに見える関係性の変遷

 

 『ダーク・ワールド』のプロモまでは、多くの人の知るように2人は大変仲が良さそうに見えました。いつも隣り合ってふざけ合ったり、インタビューでも2人で受けたりしていました。2人はそもそもソー1作目の時に合宿めいたことをしており、その仲の良さがダークワールドのあたりまでは続いていたのです。今も2人の名前で検索して出てくる仲良さげな写真のほとんどは、この頃までのものです。

 

 そしてバトルロイヤル撮影中も、仲良くふざけるオフショットがありました。ブリスベンNYの街角で話し合うソーとロキのシーンを撮影していた様子を複数の人が撮影してアップしていましたが、2人が和やかに話したりヘムズワースがヒドルストンの衣装をチェックするところなどありました。また公式のオフショット動画でも、ヒドルストンにふざけかかるヘムズワースの姿もありました。撮影中に行われた、ソーとロキの服装での2人での病院慰問でも同様の様子でした。

 

2016911日公開 SUPERHEROES - FEATURING CHRIS HEMSWORTH AND TOM HIDDLESTON! (S3EP11))

 

https://youtu.be/JQJDM2f6A3g

 

 ところが『バトルロイヤル』公開前後のプロモで少しづつ変化が起きてきました。2人だけで一緒にプロモすることもほとんどなく、複数人でインタビューを受ける時も一緒ではありませんでした。意識的に一緒に並んで仲良くすることを避けているようで、ヒドルストン自身はヘムズワースのそのような変化に戸惑っているように見えます。

 唯一、中国向けのプロモのひとつで2人はかつてのように並んでプロモをし、冗談を言い合います。しかし以前とは少し空気が違う印象を受けます。

 https://youtu.be/ryvFI_JLZsk

 公開直前のコミコンでは2人は並びに座っていますが、ヘムズワーズ氏が肩を抱いたりふざけたりする相手はワイティティ監督の方です。

 https://youtu.be/PvU6dD59IyA

 記者会見ではもはや並んでもいません。

 https://youtu.be/yPjwgr4w6r0

 オーストラリアのテレビ番組での宣伝では、監督、ハルク役のマーク・ラファロとのみ一緒に出演しています。

 https://youtu.be/hUhpJ6zb8AE

こちらは2人も出演したバラエティ番組ですが(CBSトークバラエティ番組『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』)、これはヘラやハルクなど主要人物全員が出演しており、ロキ抜きではできなかったと思われます。

 https://youtu.be/8atgsWFfDOg

 

 その傾向は『アベンジャーズ  インフィニティ・ウォー』以降でも続きました。もはやラグナロクの中国向けのプロモのように2人でインタビューを受けることもありません。

 もっともLAプレミアではレッドカーペットでツーショットを撮ったり並んで立ったりしたこともあります。

 また一回だけ、記者会見で離れて座っていたヒドルストン氏が質問に答えようとした時にからかうように手を差し伸べるジェスチャーをするシーンがありました。

 しかし全体としては、もう以前のような親しさは見せなくなりました。ロキという役柄を作品内で遠ざけるのと歩調を合わせるように、ロキを演じる俳優からも距離を急速にとっているわけです。それは自分自身の心理的なものもあるでしょうが、2人が役柄上深く結びついた仲であるという認識をプロモでの距離感で持たれたくないという意向の現れのようにも見えます。実際、そのように振る舞っても、マスコミからはロキを取り戻したいですか?などという質問がなされるのですから、ソーとロキが不可分だという認識を一般に持たれ続けるのを警戒するのは当然かもしれません。もっともそれを充分相手役に伝えてるか・伝わっているかは疑問ですが…

 

 

◼️2人が共演した作品のプロモーション以外での言及など

 

 インタビュー類を熱心に追っていない人々にとっても、そのようなプロモーションでの2人の関係性の変化は否応なしに目につくわけで、「不仲」説など、色々な憶測がネットでも取り沙汰されました。公には以前のような親しさがなく、屈託ないやりとりがないことは明らかだからです。

 

 しかし、個人としてヒドルストンを「嫌い」と受け取られることについては絶対に避けたいようで、ヘムズワースは2人に関係するプロモーションでもそれ以外でも、なるべくヒドルストン氏の名前を好意的な文脈で出すようにしています。

 

 たとえば『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』のプロモでトム・ホランドと共演したとき、わざとホランド氏の名前を間違えて「トム・ヒドルストン?」と言ったりしています。(2019611日公開)

 https://youtu.be/KzFdFyqbuIw

 ここは別にトム・ハーディーでもトム・ホランダーでも誰でもいいわけで、なんならトムの名前を出さないギャグでもいいわけですが、あえてこのギャグを演じました(誰の発案だかわかりませんが、嫌だったら拒否すればいいわけです)

 

 ソーシリーズ10周年の時は、Instagram2人が初共演した時の、出回っていないヒドルストンとのツーショット写真をアップし、ビッグプロジェクトに参加した若い俳優仲間としての思い出を述べました。(2021511)

 

https://www.instagram.com/p/COwRkk-prlg/?igshid=YmMyMTA2M2Y=

 

 また2021年には、ディズニープラスのアニメ『ワット・イフ?』シリーズでパーティーソーとヨトゥン ロキとして、声優として共演を果たし、ドラマシリーズ『ロキ』では、カエルのソーの叫び声を提供しました。

 

 

 この、ヒドルストンに対しては言葉上フォローをするがロキという役やダークワールドについては否定的態度を示す、という態度が一貫していることは、先に引用した2022年のラブアンドサンダー公開前の、自分のキャリアを振り返る動画でも明らかです。

 (ソー1については、自分にとっていかに重要な作品だったかやや唐突に述べますが、その後はロキについて言及していません。)

 

 

 

3、まとめ

 

ロキというキャラクターについてのヘムズワースの評価

 

 ヘムズワースはダークワールドからしばらくして以降、一貫して、ソー2作目までへの低評価、3昨目への好評価を下しています。特に2作目、ダークワールドへの拒絶感は相当なものです。

 そしてロキというキャラクターへの印象は「私を何度も騙す」「もう戻ってこなくていい」「ロキが死んで、戻ってきてくれなんていうのを繰り返したくない」「別れたのに相変わらず押しかけてくる元カノみたいなもの」と、さんざんです。

 とにかくロキには不愉快な印象が強いようで、自らが深く関与する作品ではロキの要素はなるべく取り除くようにしているように見えます。ロキへのソーの「情」「執着」的なものを描くMCUの脚本の傾向にしても、「戻ってきてくれなんていうのを繰り返したくない」という言葉に表れているように、不満を示しています。そのような執着はコミックで描かれてるものですが、ヘムズワースはそれを嫌っているようです。

 『アベンジャーズ  エンドゲーム 』のソーは、インフィニティ・ウォーまでのソーと相当異なるキャラクター作りがされており、ヘムズワースの意向がかなり反映されたようです。そのような中、エンドゲームでは『インフィニティ・ウォー』のようなロキへの執着がほとんど見られません。タイムスリップして地下牢のロキのそばを通っても避けるように通り過ぎるだけです。それはロキを想うあまり、辛くて見られなかったのだという解釈をする人もいましたが、上記の流れを踏まえると、単にもうソーはロキに対し過剰に「情」を示したくないというさまを表したものと捉えた方がすわりがよさそうです。

 

クリス・ヘムズワーストム・ヒドルストンの関係について

 

 ヘムズワースは一貫して、ヒドルストンについて折に触れて好きだとか尊敬しているとかのフォローを入れています。なので、ダークワールドの時までのプレミアなど公の場での仲良しぶりはもうないものの、少なくとも仲が悪いようにも見られたくないというヘムズワースの強い意向は、上記の言動通じて感じます。実際、公の場に一緒に姿を現すことはなくなっても、声優としての共演などは果たしています。

 もっともロキを全身全霊で演じていて思い入れも深いヒドルストン自体に、なにがしか感じている可能性もあります。しかしヒドルストンはこれまた一貫してソーへのリスペクトを貫く発言を続けており、最近のインタビューでもソーとの再会を望むような発言もしています。

 

 

その他: ファンダムの動向

 

 上記のように、注意深くインタビューやプロモを追って分析している人ならともかく、普通の人は、仲良し時代の動画や写真が流布してしまっているために、未だにそのような関係だと信じる人も多い状況です。

 またソーとロキの関係にロマンチックなものを見出す人々は、たとえ上記のような状況を知っていても、直視しない傾向にあります。ソーとロキがまた仲良く共演してほしいという希望を今も繰り返し述べている人も結構います。

 

 また「ロキの髪を追悼のために自分の髪に編み込んでいる」という噂が映画のスクショ付きで拡散される現象が時折起きるのも(ロキと共闘してるシーンでその黒っぽい編み込みがあるのでそれはデマなのですが)、そのような関係性に人気がある現れでしょう。

 

 それは映画雑誌などの影響も大きいでしょう。たとえば「スクリーン」20206月号では、「神兄弟徹底比較 クリス・ヘムズワース2人の関係が最初から今に至るまで全く変わらないかのような扱いで振り返り特集をしています。

 

 そのような中、上に述べたような、かなり何回も繰り返しているヘムズワースのソーやロキへの気持ちは、なかなかファンダムに届いていないようです。ソー5作目がもっと初期寄りの雰囲気にするという噂がたって、多くの人が歓迎したりロキとの再会を望む声をあげていますが、この数年間にわたって真逆のことを成し遂げようとしてきたヘムズワースは、そのようなファンダムの動きをどのように受け止めるでしょうか。

 

<了>

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