Topaztan’s blog

映画やドラマの感想や考察をつづっています

第17 回 世界バレエフェスティバル Aプロ 感想

 8/4(日) 14:00〜第17回世界バレエフェスティバル Aプロ最終日を観に行った。かなり久々のバレエ鑑賞でバレエフェス自体も前回は欠席だったので、戴冠式行進曲を聴きながらあのバレエの絵の緞帳を見てるだけでうるっときてしまった。

 以下簡単な覚書。

 

<第1部>

 

◼️「白鳥の湖」より 黒鳥のパ・ド・ドゥ(ジョン・クランコ振付)
マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド

 

 トップバッターの2人は会場を温めるにふさわしい華やかな踊り。ブラウンは堂々としてかつ狡猾な黒鳥を見事に演じており、指先の隅々まで羽根を思わせる動きが美しい。わざとらしというかケレン味ギリギリを攻めるオデットの真似とか、触れようとする王子を薄く笑みながらさっと牽制する動きなど、ガラでの白鳥ものとは思えぬほど役を作り込んでいて、見ていて楽しかった。フィゲレドもちょっと気弱なたぶらかされる王子を好演。

 

◼️「クオリア」(ウェイン・マクレガー振付)
ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク

 

  初めて観た演目だと思うが(多分)、我ながらアホみたいな感想だが「ヤスミンの股関節すげえええ」というのがまず浮かんだ。観ていて自分の股関節も痛いほど引き伸ばされる感覚を覚えるほどグイーンと180度以上に開く振付が多い。

 コンテという言葉で思い浮かぶ振付全部乗せみたいな感じで、見応えはあった。

 

◼️「アウル・フォールズ」(セバスチャン・クロボーグ振付)
マリア・コチェトコワ
ダニール・シムキン

 

 コチェトワとシムキンの組み合わせとスタイリッシュなコスチュームが、奇しくも(あるいは狙って?)、ユニセックスな双子のような雰囲気を醸し出した作品。コミカルな、時にはうねるようなクリーピーさのある動きが繰り出され、不思議なワールドに。シムキンのしなやかな身体能力が、はではでしい感じではなくて活かされており、かつてバレエフェスでは跳んだり跳ねたり系で会場を沸かせる役回りだった過日を思い出してしみじみしてしまった。

 

◼️「くるみ割り人形」(ジャン=クリストフ・マイヨー振付)
オリガ・スミルノワ
ヴィクター・カイシェタ

 

 とにかくスミルノワが非常に素晴らしかった。クララなんで人間なのだろうけど、なんか人ならざる感じの精霊のようでもあり。シャープさと繊細さ・優雅さを併せ持つ動きとシルエットが、山岸凉子の若い時の作品の登場人物が、生を得て動き出したかのような驚きと感動があった。観てない人には大袈裟と思われるかもだが、マジでそうなのだから仕方ない。

 カイシェタはいきいきとフレッシュなのはいいが、粗削りなのは気になった。何かと猫背気味に首を前に突き出して文字通り前のめりになり、ある時はバランス崩してでも勢いを出しており。少年っぽい乱暴なほどの熱意と天真爛漫さを出そうという意図はわかるのだが、もっと違う表現があるだろうと思った。スミルノワの踊りが針先のように細い線で描く絵だとしたら、彼の方はマジックインキみたいな太い線で描く絵で、もうちょっと合わせて欲しかった。

 

◼️「アン・ソル」(ジェローム・ロビンズ振付
ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン

 

 静かな演目で、2人のケミストリーをしっとり楽しむべき作品だと思うのだが、あんまりそれが感じられなかった。ドロテ・ジルベールは過去にこの演目踊ってるし選ぶ気持ちはわかるのだが、別演目の方が良かったんじゃと。あとこれって海とか太陽のモチーフの背景あったらしいけどそういうのなかったよね?

 全体に舞台転換の時間や予算の関係あったのかもだけど、背景なしでいいのかなと思うのが散見された。

 

<第2部>

 

◼️「ハロー」(ジョン・ノイマイヤー振付)
菅井円加
アレクサンドル・トルーシュ

 

 この振り付けは途中までかなり面白いと思ったが、後半が自分的には尻すぼみに感じた。

 前半は女性がとにかく強く、「ハロー」という題名から連想される明るい和やかな感じと違い、キスしそうなくらい近づいたところを、ふん!とかわす感じが菅井氏の踊りにもとても合ってたが、後半は全くそんな雰囲気がなくなってしまった。手に顔を埋めて体を丸めたりして、なんでこんな弱々しくなったんだと。まあ素直になれないカップルだけどやっぱり2人一緒だよね…みたいな落とし所は、この作品が作られた時代からすれば仕方ないところなのだろう。

 

◼️「マノン」より第1幕の出会いのパ・ド・ドゥ(ケネス・マクミラン振付)
サラ・ラム
ウィリアム・ブレイスウェル

 

 サラ・ラムは可愛らしく軽やかな動きがいかにもマノンという感じで良きだった。対してブレイスウェルのデ・グリューは、ひとつひとつの振りの接続がぎこちなく、マノンに向ける笑顔とかも、そういう筋書きだからしてます!という感じ。全体に振付を頑張ってこなしてる感が目立ち、運命の恋に落ちたようには見えなかった。観ながらこの振付は難しいんだよな…という印象が強まり、もう少し踊り込んできて欲しいなと。

 個人的に、物悲しいこの音楽を聴いて過去に観たマノンの記憶がぶわっと蘇り、つい涙ぐんでしまった。

 

◼️「ル・パルク」(アンジュラン・プレルジョカージュ振付)
オニール八菜
ジェルマン・ルーヴェ

 

 この演目はガラ公演でよく観るが、誰でも彼でもル・パルクをやればいいというもんでもないな…と思った。

 ルーヴェがあまりにも無関心無反応で、キスしたままくるくるというクライマックスの振付は、そこに至るまでに細やかな心情の結びつきが提示されなければ滑稽になってしまうのだなと実感させられた。しかもそのくるくるがよろけ気味で、しがみついてる八菜氏がますます独り相撲取ってるように見えてしまった。いや、あえてそういうコンセプトの演出なのかわからないが…

 

 

◼️「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」(ジョージ・バランシン振付
永久メイ
キム・キミン

 

 結構評価に迷った。それぞれに技術がとても高いのはよくわかるし素晴らしいんだが、チャイパドという演目としてみた場合、うん…?という感じ。

 自分もそんな詳しい訳ではないのだが、きちっとバランシン風かというとそうでもなく。まあ個性を持ってやるのも悪くないと思うのだが、何より気になったのが、2人の踊りの方向性がすごくバラバラということ。それが共鳴し合わず、水と油という言葉すら浮かんだ。それぞれソロで踊る演目がいいのではないか。

 キム・キミンはかつてのシムキンのような、高い技術で会場をわーっと沸かせるタイプ。着地音ない軽やかな高いジャンプが印象的だった。

 

<第3部>

 

◼️「3つのグノシエンヌ」(ハンス・ファン・マーネン振付
オリガ・スミルノワ
ユーゴ・マルシャン

 

 大変息のあった、驚くほど一糸乱れぬシンクロニティーが堪能できた。またマルシャンはジルベールの時よりもケミストリーを醸し出しており、カンパニー違うのにすごいなと。短期間でどうやって練習したんだろう。水面を滑るような滑らかな動きも美しい。コンテは正直長いな…と感じるのが多い中、結構あっという間に感じた。

 拍手は少なめだったようだが、Aプロの今風コンテの中では一番好きだった。ぜひお二人でまた組んだ全幕ものとか観たい。

 

 

◼️「スペードの女王」(ローラン・プティ振付)
マリーヤ・アレクサンドロワ
ヴラディスラフ・ラントラートフ

 

 アレクサンドロワの伯爵夫人がすごい存在感で釘付け!指先や上半身のしなやかな、時には人外じみた動きなどの隅々までまがまがしさが満ちていて、観ているこちらまでひどい運命に巻き込まれそうで胸騒ぎがした。ぜひとも全幕で観たいと思った。

 ラントラートフも素晴らしく、シャープな動きで、恐れや惑いと野心が入り混じるゲルマンをよく表していた。

 

 

◼️「マーキュリアル・マヌーヴァーズ」(クリストファー・ウィールドン振付)
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

 

 アッツォーニとリアブコはバレエフェスでも鉄板のペアだが、今回も全くもって安心の踊り。だが個人的には、せっかくのお二人を活かしてもっと挑戦的な演目にしてほしかった。

 

 

◼️ 「空に浮かぶクジラの影」(ヨースト・フルーエンレイツ振付
ジル・ロマン
小林十市

 

 風船を使った面白い演出。舞台上で一生懸命膨らませる姿は、それ込みで演出してるのか判断に困るところではあった。2人で抱き合ってパーン!と割るのにはびっくり。近づきたいけど近づきすぎると破綻する関係性ということなのだろうか。割れた後の風船の破片で滑りはしないかとハラハラしてしまった。

 腕の動きを活用するなど年齢を重ねても表現できるものを追求していて、常に挑戦し続けるジル・ロマンに、観客の拍手はひときわ大きかった。バレエフェスティバルのというかNBSファンの観客が求めるものの柱の一つなのだろうし、なくてはならぬものなのだろう。

 

 

<第4部>

 

◼️「アフター・ザ・レイン」(クリストファー・ウィールドン振付)
アレッサンドラ・フェリ
ロベルト・ボッレ

 

 静かな情感に満ちた踊りで、現在のフェリによく合ってると思う。ふとした腕や手の動き、長い髪をそっとおさえる仕草などに若手にはないしっとりした情緒を感じた。

 ただどうしてもピンと四肢を伸ばしてリフトされているところで体幹に不安な感じが見受けられるなどして年齢を感じるところはあり、ボッレが大変気遣わしげにサポートしてるのを含めて、介護っぽい感じが。ボッレは肉体美とキレは相変わらずで、単独で颯爽と踊るところが観たい。

 

◼️「シナトラ組曲」(トワイラ・サープ振付)
ディアナ・ヴィシニョーワ
マルセロ・ゴメス

 

 都会の男女の織りなす恋模様を描いた、一編の映画を観た感があった。ラブラブカップルなのだが途中で彼氏が傲慢になってしまい、自分でもそれに気づいてもうだめだ…と落ち込むのを彼女が慰め、誠実に謝ることで許されて改めてしみじみと絆を深め合う…というストーリー(多分)が、字幕ないのに浮かび上がってきた。

 ネットで上がってる動画を見る限り、ゴメスは10年以上前から踊っていて彼のレパートリーにあるらしく、大変こなれている。彼の持つスタイリッシュな雰囲気は黒タキシードの衣装がピッタリだし、洒脱で粋な振り付けも、まるで彼の内面から自ずと湧いてきた自然な動きに見える。対してヴィシニョーワは今まで踊った形跡が見当たらなかったので、今回が初か。そのためか以前観ていた彼女の動きに比べて、抑制的でややぎこちないところもあった。雰囲気は彼女に合ってると思うし、まだまだ踊れると思うので、もっとこなして彼との名コンビぶりを復活させてほしい。

 カーテンコールでもラブラブぶりが続き、サポートされながら跳ぶように踊りながら去っていくのも世界観があって良かった。

 

◼️「椿姫」より第1幕のパ・ド・ドゥ(ジョン・ノイマイヤー振付)
エリサ・バデネス
フリーデマン・フォーゲル

 

 バデネスの技術ではなく役作りで結構疑問に思った。何度も咳をする演技があるのだがかなりわざとらしくて、うーんもっとこう誰か演技指導した方が…と。あと、走り方とか、腕をわざと乱暴に投げ出したりする動きとか、全体におきゃんな町娘という感じで、少なくとも原作の、すいもあまいも噛み分けアルマンを教え導くクルチザンヌのマルグリットには見えない。原作から離れた役作りをあえてしてるのかもだが、ガラで単独のシーンで説得力もってやるには難しい気がする。海外の批評家が彼女のこの踊りを絶賛してるの読んだけど、全く共感できなかった。

 フォーゲルのアルマンは足捌きなど技術的には申し分ないが、バネデスのマルグリットがそういう感じなので彼女につられてはしゃいだように見えた。それは確かに高嶺の花に相手してもらって舞い上がるアルマンとしては正しいのだが(これで落ち着いていたら物語が破綻してしまう)、相乗効果で若いカップル(片方が風邪気味)が大騒ぎ!といった感じのシーンになってしまい、あんまり椿姫っぽくはないと思った。

 

◼️「ドン・キホーテ」(マリウス・プティパ振付)
マリアネラ・ヌニュス
ワディム・ムンタギロフ

 

 舞台左右の画面に写し出されたインタビューでヌニュスは15年ぶりの参加とわかった。初参加は14歳に驚く。

 彼女のキトリは大変優雅で、要所要所のキメの動きも意識的にゆったりした動きにしており、ちゃきちゃき踊るのがデフォルトな感じのこの演目ではかなり異質というか挑戦的な感じだった。全体に、丁寧に折った折り紙のようにきちんとしており、連続ピルエットのところも、そういうシーンではだんだん軸が移動していく人も多い中で彼女は全く移動せず同じところでまっすぐに回っていた。それだけに、もっとわかりやすい派手な感じを求める人には物足りないかもしれないし、またその表現力はもっと演劇的な演目で活かして見せて欲しかったなあという気持ちも持った。

 ムンタギロフは元気で幸せそうなバジルで全体にそつなくこなしており、サポートも適切だったと思う。

 そういえばドンキといえばみんなワクワクの、片手リフトとかフィッシュダイブとかが一切なくて、それもなんか地味だな…という印象を強めた。それこそキミンと誰か若手ダンサーでやった方が盛り上がったのではと思った。

 

********

 

 この日も非常に蒸し暑くて、東京文化会館を一歩出るとむわーっとしてもう歩く気をなくすような感じであった。ダンサーのみなさん、真夏の日本という過酷な環境に来てくれてありがとうの気持ちと、他のスポーツやらイベントやらでも思ってるけどそろそろこの時期にやるのはやめてずらした方がいいんではないか…地球環境の変化考えると…という気持ちが交錯した日でもあった。

 みなさん体調崩されずお元気で過ごされますよう。