Topaztan’s blog

映画やドラマの感想や考察をつづっています

第17回世界バレエフェスティバル Bプロ 感想

 8/10(土) 14:00〜、第17回世界バレエフェスティバルBプロを観てきた。全体にAプロよりも踊り手とマッチしている演目が多かったように思う。以下に簡単な感想。

 

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― 第1部 ―

 

ライモンダ
振付:マリウス・プティパ
音楽:アレクサンドル・グラズノフ

マリーヤ・アレクサンドロワ
ヴラディスラフ・ラントラートフ

 

 安心安定の美麗なライモンダで、会場を温めるにぴったりだった。ラントラートフのマント捌きも華やかな騎士ぶりが麗しく、アレクサンドロワの落ち着いた気品のある、また適度にケレン味ある動きに魅了される。ただ二人ともレヴェランスを引っ張る理由がよくわからず…そんなもんだっけ?それともなんか舞台裏の理由があったのだろうか?


アミ
振付:マルセロ・ゴメス
音楽:フレデリック・ショパン

マルセロ・ゴメス
アレクサンドル・リアブコ

 

 男二人のコンテ、意外な面白さがあって良きだった。考えると男女の愛をテーマにしたのは多けれど、また、たまーに男同士の愛を描いたのはあれど、「友情」をテーマにした作品は少ないなと。肩に手を置く仕草は「プルースト」の「天使と悪魔」を思わせるが(サン・ルー侯爵とモレル)、「プルースト」と違って恋人関係ではない。肩に置かれた手がなん度も静かに振り払われ、ものすごく敵対してる訳じゃないが好敵手と認めあって切磋琢磨する感じ。

 リアブコとゴメスの踊りに異なる個性が観てとれて面白い。特にゴメスの安定したアラベスクや、腕の動きのうねるようなしなやかさに目を見張った。白鳥か何か、大きく優雅な鳥の翼がうち広がっていくような…。かと思うと二人のジュテが、自然な上体と美しい足の広がりまでぴったりシンクロしてたりして、違いと同質の変化のめまぐるしい万華鏡のようでもあった。確かに「友人」は自分と全く同じでも全く違うわけでもなく、時にはライバルにもなるよなあと、友情とは何か…まで考えさせられてしまった。

 

ア・ダイアローグ
振付:ロマン・ノヴィツキー
音楽:ニニーナ・シモン

マッケンジー・ブラウン
ガブリエル・フィゲレド

 

 こちらはアミと全く違う毛色の振付でまた面白かった。アミがベテランの優雅さで貫かれていたのに対し、こちらは若者にしかできないような、独特のリズム感と瞬発力とおかしみのある動き。ダイアローグという名にふさわしく、二人がダンスで対話してる感じが良い。よくあるコンテの動きとはちょっと違う振付だが、2人ともそれをよく体現していたと思う。ブラウンの身体能力を堪能。

 

ジュエルズより"ダイヤモンド"
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
永久メイ
キム・キミン

 

 永久さんの踊りとても綺麗でした。が、うーむ…Aプロにもまして、この二人が組んでこの演目を踊る理由は?となった。

 ジュエルズはバレエフェスでもよく踊られる演目だと思うが、バランシン風かどうかはそれぞれながら、各々のペアはパートナーリングが素晴らしかった。宝石の世界で、その女王たるダイヤモンドと、彼女を輝かせる台座にして騎士とか、そういう世界観を感じさせるものが多かったと思う。キミンは確かに一生懸命ささえはしてるけれども、そのような何かの関係性が見えず。永久氏も彼女をもっと伸びやかに、ゴージャスに魅せるパートナーリングがあったらよかったなあと思った。二人とも技術はとてもあるのだから、それぞれが輝く演目を見たかった。

 

バクチⅢ
振付:モーリス・ベジャール
音楽:インドの伝統音楽
大橋真理
アレッサンドロ・カヴァッロ

東京バレエ団

 

 大橋氏とカヴァッロの踊りはキレがあって良かった。東バメンバーも加えた構成で、見る側としても演目の流れの雰囲気が変わるのもいい。ジュエルズ→海賊ではよくあるガラになってしまいそう。ただインドの伝統音楽をインド以外の人、しかも白人の振付家が使って作るなんちゃって感を振付に感じてしまい、ちょっと没入感が妨げられた。

 

 

海賊
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ
マリアネラ・ヌニュス
ワディム・ムンタギロフ

 

 こちら安心安定のペアによる海賊。両者ともここぞというところで期待するワザをしっかりと披露しつつ、全体に品よくまとめている。ヌニュスのピケターンが美しい。ムンタギロフのアリは、以前どっかで見た王子系のダンサーの優雅なアリを彷彿とさせる動きで、王子系の人はそっちに全振りしたアリという造形でもいいよなと思ったり。あまりはではでしい動きではないのがかえって好印象という珍しい「海賊」だった。

 

― 第2部 ―

 

ソナチネ
振付:ジョージ・バランシン
音楽:モーリス・ラヴェル

オニール八菜

ジェルマン・ルーヴェ

 

 二人ともAプロよりずっと良かった。お互いケミストリーがあり、軽やかにパをこなしており、ルーヴェが特にいきいきしてた。バランシン風かというとよくわからないが、ル・パルクの時よりは題材を自分たちのものにしていたと思う。

 

 

ロミオとジュリエットより第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

サラ・ラム
ウィリアム・ブレイスウェル

 

 同じ演目を擦り切れるほどたくさん観てるというのは、時として不幸なのではないかな…と時折自分をかえりみて思う。たとえばこの演目の場合、自分はめちゃくちゃ素晴らしい上演でない限り響かなくなっていて、バルコニーPdD不感症とも言うべき状態になってしまっている。フレッシュな気持ちで鑑賞できる人が羨ましいと思った(もちろん数多く観てても楽しく新鮮に観られる人もたくさんいると思うが)。今回は、サラ・ラムのジュリエットはいかにも恋する14歳的で素敵!だったが、またしてもブレイスウェルが…だった。

 ブレイスウェルはAプロのマノンよりは技術的には全然よくできていた。だが「恋するロミオ」の演技がないのが大変気になった。ベテランとか若くてもうまいロミオは、技術的に疾走感持ってこなしつつ、あふれる情熱を様々な動きに込める余裕があるが、彼は自分の見せ場が終わるとプツッと電源が切れる。たとえばジュリエットが後ろで踊ってる時に体の向きを変えず、ただ首だけ無理やり後ろ振り返って見てたりして、あー…という感じだった。あたかも「ジュリエットの踊りをロミオは見つめる」というト書きがあって、それに従ったかのようだ。マノンの時も思ってたけど、こういう指示があるんでそうします感がすごい。最後バルコニーに駆け寄る時とかも名残惜しい!感がなく。

 確か彼が出たロミジュリ映画では、そのあたりがあんま気にならなかったというかまあ普通に演技してたと思うので、それはパートナーが違うからなのか、それとも編集された環境だからなのか、よくわからんかった。

 

マーラー交響曲第3番
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:グスタフ・マーラー

菅井円加
アサクサンドル・トルーシュ

 

 菅井氏の良さがAプロの時よりさらに活かされていたと思う。彼女の力強さとキープの姿勢や力、リフトされながらの動きも安定感となめらかさがあって安心して見られた。トルーシュのサポートも安心。

 

マノンより第1幕の寝室のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ

ヤスミン・ナグディ
リース・クラーク

 

 ナグディの溌剌としてお茶目でコケットな感じがいい感じに原作マノンっぽい。手紙を書いてるデ・グリューに近づくところもたっぷり演技を入れる。他のダンサーがもう少し優雅な感じで踊ってるのを観てきたが、これはこれで良き。クラークの屈託のない踊りとも合う。技術的には言う事なしだったと思う。まあほんとはこれから先破滅に向かって進んでいく二人の束の間の幸せな時であるというのを踏まえた感じにした方がいい気もするが(だから違和感感じる人もいるだろうなとは思う)、ガラだしね。

 

 

ニーベルングの指環

振付:モーリス・ベジャール
音楽:リヒャルト・ワーグナー

ディアナ・ヴィシニョーワ
ジル・ロマン

 

 自分はワーグナー好きなんだが、それだけに、うーんその歌詞が流れる中でその動き?というのが気になって仕方なかった。父親の思惑やジークフリートやグンター一族やハーゲンらに人生を振り回されてきたブリュンヒルデが、全てを悟って人々に語りかけ、場を支配して、地上も天も焼き尽くす火を放つ、そういうシーンであるのに、なんか火の神ローゲに魅入られたようにダンスするのみ。なんか全幕観ればわかるものがあるのかもだが、これだけでは何ぞ??という。

 ヴィシニョーワはブリュンヒルデとしての威厳や存在感あったが、それだけにこの踊りだけではもったいないな…と思った。

 

第3部

 

ル・パルク
振付:アンジュラン・プレルジョカージュ
音楽:ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト

アレッサンドラ・フェリ
ロベルト・ボッレ

 Aプロよりずっと演目的に二人に似合っていた。フェリは恋する少女…というと語弊があるが、慕わしい気持ちを自然に、器からさらさらと水がこぼれるように溢れさせる様子は、流石の境地。

 ボッレはやや慎重ながらよくサポートしており、慈しむ気持ちが随所に溢れていて、充分インタラクティブであった。キスしながら回転のところが、ボッレにしては大変珍しく少しよろけ気味のところがあったが、それだけ今のフェリをきちっと支えて魅せる踊りにするには大変なんだろうなとは思う。

うたかたの恋より第2幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:フランツ・リスト

編曲:ジョン・ランチベリー

エリサ・バデネス
フリーデマン・フォーゲル

 

 バネデスのおきゃんな役作りは椿姫の時と変わらなかったが、それは今回の演目にはちょうどいい感じに合ってた。フォーゲルも、彼自身の内面にうごめくものや、逆に彼女の不穏なほどあふれるパワーに圧倒され惑う感じがよく出ていて、全幕でこそ観たいと思わせる。アクロバティックな動きも二人で息ぴったりによくこなしていた。

 大変気になったのが、マリーの下着をばっと下ろして胸を見る演出の演目なんだけど、お子さんも結構観にきてる方々いて、これいいのか…?と思った。以前観に行ったマノン全幕も、お子さん連れてきた人たちいたけど、うーんなんかなあ…人様の教育に口出すのも野暮だけど、性暴力的なのやそれを連想させる演出含んだ演目を見せるのは結注意が必要ではないかなと。

欲望
振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:アレクサンドル・スクリャービン

シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ

 

 Aプロに引き続き安心安定この上ないペア。音楽と共に織りなす動きも素晴らしい。とても良かったのだが、次のオネーギンでびっくりして細かな印象が上書きされてしまった…すまんアッツォーニ&リアブコ。でも考えると「このペアなら盤石で言う事なし」という看板が長年全く揺るがないのはすごいことだ。

オネーギンより第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー

編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ

ドロテ・ジルベール
ユーゴ・マルシャン

 

 マルシャンのオネーギンは、後悔したり慕わしい気持ちよりも、隙あらばモノにしたい感の方が出てて、クズみが強い(そういう役作りもありだと思うし原作オネーギンはクズいと思う)。それだけにジルベールのタチヤーナの、そんな男でも初恋の男への想いを忘れられない自分への葛藤が際立った。そういう、しょうもない男だと大人になればなるほどわかるのに、それでも若い頃好きだった人が心に引っかかり続けるという経験は割とよくあるのではないだろうか。自分も身につまされた。

 ジルベールのタチヤーナには本当に驚かされた。失礼ながらこんな演技派だとは知らなかった。一挙手一投足に揺れる気持ちが描き出され、首をかすかに振りながらオネーギンから逃れようと引きずられながら一歩づつ歩んだり。リフトされながらまっすぐ上げた腕を下ろす時も指先の動きに慕う気持ちが溢れ。様々にリフトされたりなんかりする時にはっきりする体幹がしっかりした踊りも素晴らしい。オネーギンが囲い込むように頭上から両腕を回して足元まで下ろす時も思わず激しく身震いしたり。そして手紙をオネーギンに見せる時は見てる私までたじろぐほどの迫力で、紙をほら!と突き出す時のびしっという音まで聞こえた。その演技がやりすぎと思う人もいるかな…とも思うが、私は彼女の解釈での全幕を観てみたいと思った。この演目だけ拍手が長く、観衆がカーテンコール2回したそうな感じだったのもむべなるかな。

 

ドン・キホーテ
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス

菅井円加
ダニール・シムキン

 

 なにしろ菅井氏の強靭極まりない下半身が印象づけられた。各姿勢のキープ力(りょく)もハンパないし、サポートがさほど必要ないんじゃないかと思わせる強さが随所に。「ドン・キホーテ」のキトリらしいかと言われるとよくわからないが、でもガラ公演のトリらしさは充分。フェッテのところでは後半移動していったりしたけど、ダブル入れまくって魅せる。今回のバレエフェスは日本人女性ダンサーの力量をそこかしこで感じ、その意味でも感無量であった。

 シムキンは、バレエフェス盛り上げ役をしっかりと。往年の感じではないけれども、540度のマネージュをちゃんと入れ込んだり、ターンをかっこよくこなしたり(確かABTの人たちこういうのしたよな…と思い出した)、みんなこういうのが観たいんでしょ?というのを全部乗せ。途中プリエっぽいしゃがんだ姿勢のターンも披露して会場を沸かせてた。

 

 

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