Topaztan’s blog

映画やドラマの感想や考察をつづっています

老いと現代の価値観についていけないマジョリティ女性の不安〜『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』

 12/29から配信され始めたセックス・アンド・ザ・シティの新章、第1話を観ました。


 全体としては、昔のシリーズの焼き直しにはあまりなっておらず、年齢を重ねた女性たちの、いわば等身大の姿を描こうとした点は好感が持てるものでした。

 たとえば諸事情あってサマンサが抜けた3人で会ってランチをする際、話題になるのはファッションやグルメ、恋愛の話などではなく、髪を染める染めないの話、若作りすべきかどうかなど、中年女性に馴染みのある話です。こんなに率直に語り合うケースは少ないでしょうが。また子供がいるミランダやシャーロットは子供の話題を色々出すけれども、子供がいないキャリーは居心地悪く感じてそれとなく話題を変えたり席を離れようとするさまもリアルです。付き合いにヒビが入るほどではないけれども、それぞれのライフステージが変わってある話題について完全に一緒のテンションでいられないというのは、誰しも経験することではないでしょうか。そして、それにも関わらず、分断されず友情が続いているということこそ、このドラマが伝えたいことのように見えます。

 またキャリーとビッグとの息のあったパートナーぶりもよかったです。長年連れ添ってお互い愛し合ってる夫婦ならではの安心感と微笑ましさがありました。以前のビッグだったらもっとつっけんどんに対処しただろうなと感じるキャリーの言動にも優しく付き合ってます。


 しかしその一方で、現代の多様性についていけないのではという中年、というか初老の人間の気持ちが前面に出た話でもありました。

 多様性についてかなり時間を割いてるにも関わらず、それについての情報を観客に伝えたり問題提起するというのではなく、キャリーたちの戸惑いにフォーカスした作りでした。なのでマイノリティを扱い、かつ彼らを特に攻撃している訳ではないのに、マジョリティ側の心理に寄り添うという現象が起きていました。

 それをどう捉えるかですが、「時代についていけない」側の正直な気持ちを表現したという点では、いつの時代のいつの中年にも起こりうる普遍的な現象であり、多くの人の共感を得られるものであります。またそれがここ数年で特に劇的に変化した「多様性」についてということで、いわば歴史を書き留めた意義があるでしょう。ですがマイノリティがその「ついていけない」気持ちのダシにされているという面は否めません。特にセクシャルマイノリティ側の描写は、突拍子もない言動や、誇張されたりテンプレな言動を取らされているケースが多かったです。

 スタンフォードとアンソニーは、衣装選びの時間を取りすぎることで喧嘩する仲であったり、アンソニーは仕事とはいえ「イケメン」を大真面目にジャッジしていたりしており、いかにも昔ながらのゲイのイメージです。ノンバイナリーのポッドキャストのホスト役は、自慰という極めてプライベートな話題もどんどん公で言えというようなことを言い、これもセクシャルマイノリティが性に奔放だというイメージを踏襲したものに見えます。実際のノンバイナリーを起用している点は評価されますが、この座談会のシーンは、矢継ぎ早にシス女性とかノンバイナリーとかの言葉が出てきており、観ている方が「わかって」いれば別にどうということはないのですが、どうも「言葉は聞いたことあるけどよくわからない」人たちへ戸惑いを感じさせるような演出にも感じられ、そういう層に向けた作りなのかなとも思いました。

 一方人種マイノリティについてはそこまでおかしな感じはしませんでした。人権について学びたいと思いながらも、失言しないようにしようというプレッシャーから、空回りして失言しまくってしまうミランダが滑稽な側に回っています。ミランダが学ぼうとしている教授は、不妊治療をしてる最中という描写もあり、それもかなりリアルなもので、単なる記号的存在ではなく奥行きがあります。しかし、髪ひとつについても発言を大変考えざるを得ない世の中での、白人の「肩身の狭さ」「居心地の悪さ」にフォーカスした話であることには違いなく、マジョリティ側に寄り添った描写と言えるでしょう。(髪といえば、彼女はその前にシャーロットから白髪染めをした方がいいと言われ、いったんは強気にしりぞけたけれども内心気にしてることが伺われ、自らの老いとその対処についてもプレッシャーを感じてることがわかります。なので頭にいつも髪のことがあって、つい教授にも髪について口にしてしまったのでしょうが、髪は黒人にとって相当センシティブな話題であることは言を俟ちません)


 もっともまだ第一話ですから、旧作の登場人物のおさらい的な意味合いが強いでしょうし、今後新しいキャラにフォーカスした話も出てくるかもしれません。シャーロットの下の娘は、フェミニンな格好をさせられることを大変嫌っており、もしかしたらセクシャルマイノリティかもしれないですが、強い個性を持った存在として強調されています。またシャーロットのママ友家族もとても興味深いのでぜひ色々登場してほしいです。「新しい時代」でキャリーたちがどのように時代と向かい合うのか、注視していきたいですね。